安全・EMC業務計画書の作成と試験の実施

リスクアセスメントの実施とレポート作成

最近、製品のリスクアセスメントは、特に安全規格の必須要求として義務化されて来ています。製品の仕様とユーザーの合理的予見可能な誤使用を明確にした上で、製品のリスクアセスメントを行って安全な製品を提供することはメーカーにとって今日的な重要な課題となっています。

製品の開発・設計段階において、適用する安全規格の要求に従って設計することによって その製品が持つリスク(危険)は低減される。
例えば、IEC 61010-1:2010(測定用,制御用及び試験室用電気機器の安全性-第1 部:一般要求項)の場合、下記のような要求があります。

1. 電撃に対する保護→「規格書」6 章

通常条件および単一故障条件で電撃に対する保護

2. 機械的危険に対する保護→「規格書」7 章

通常使用時および単一故障時の操作での機械的危険

3. 衝撃及び衝突に対する機械的耐性→「規格書」8 章

通常使用で発生しやすい衝撃及び衝突を受けたときの危険

4. 火炎の広がりに対する保護→「規格書」9 章

通常条件または単一故障条件において、機器の外部への火炎の広がり

5. 機器の温度限定及び耐熱性→「規格書」10 章

接触面の温度、「巻線を持つ部品、ユニット、各部品の温度上昇

6. 流体による危険に対する保護→「規格書」11章

流体を内蔵する機器又は液体のプロセスの計測に使用する機器の液体から生じる危険

7. レーザー放射を含む、音圧及び超音圧に対する保護→「規格書」12 章

電離放射線、紫外線、マイクロ波放射、音圧及び超音波圧を発生する機器の危険

8. 遊離ガス、爆発及び爆縮に対する保護→「規格書」13 章

機器は通常条件で、危険な量の有毒ガス又は有害ガスの危険

本規格は、2010年版から下記の内容が追加、即ちリスクアセスメントが明確に要求されるようになって、それらの実施が義務化されている。

9.用途に起因する危険→「規格書」16 章

合理的に予見可能な誤使用は,リスクアセスメントによって対応しなければならない。適合性は,検査及びリスクアセスメント文書の評価によって確認する。

上記に加えて、人間工学的側面にも言及して a) 人体寸法の制限 b) 表示器及び指示器 c) 制御器への接近しやすさ及び制御器への慣例 d) 端子類の配列 同様に適合性は,検査及びリスクアセスメント文書の評価によって確認する。

そして機器を調査して、各規格要求で十分に対応していないハザード(1.2.1 参照)があり得ることが分かった場合は,リスクアセスメントが要求されるとあります。

10.リスクアセスメント→「規格書」17 章

リスク低減の妥当性の検証

具体的には、a) リスク分析 b) リスク評価 c) リスク低減 の反復プロセスによって 許容可能なリスクレベルまで低減してそれらを文書化すること、同時にリスクアセスメント後に残るリスク(残留リスク)は、取扱説明書などでユーザーに提供することが要求されています。

3ステップメソッド

  1. 可能な限りリスクを排除するか又は低減する(本質安全設計及び構造)。
  2. 排除できないリスクに関して必要な保護方策を採る。
  3. 採用した保護方策が十分でないことによる残留リスクを使用者に情報提供し,何らかの特定の訓練が必要かどうかを提示する。さらに,用意しなければならない要員保護具を指定する。

製品(機械・装置・機器)のリスクアセスメント、及び制御システムの安全に関する規格は、以下のとおりですが、安全の考え方とその方法について、添付の"リスクアセスメントと安全設計"のセミナー資料を参照にしていただきたい。

ISO 12100:2010 (機械の安全)
Safety of machinery - General principlesfor design
- Risk assessment and riskreduction

ISO 13849-1:2006 (制御システム)
Safety of machinery - Safety-related parts of control systems
- Part 1: General principles for design

新EU指令が要求するリスクアセスメント

(1) 新EU指令 (New EU Directives)

1) 概要

CE マーキングは、製品のマーケティングに関する新法令枠組み(NLF:New Legislative Framework)が、2008年8月にEU 官報により公布され、事業者の義務、及び適合性評価手続き等の強化が行われることが決定された。これに伴い、NLFへの整合化が図られ、2011年11月に、欧州委員会より、関連の9 指令〔低電圧、EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性)、リフト、防爆機器、単純圧力容器、計量器、非自動はかり、民需爆薬、花火等〕の改正案が公示され、欧州議会及び理事会で審議された。その後、NLF対応の新EU指令としてリリース、強制適用となった。

2) 主な新EU指令

■RoHS指令(2011/65/EU)
*RoHS: The Restriction of the use of certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment
2013年1月より改正RoHS指令(2011/65/EU)として施行

■EMC指令 - 2014/30/EU - *EMC: Electric-Magnetic Compatibility
2016年4月20日以降、適合強制 (旧:2004/108/EC)

■低電圧(LV)指令 - 2014/35/EU - *LV: Low Voltage
2016年4月20日以降、適合強制 (旧:2006/95/EC)

■無線機器(RE)指令 - 2014/53/EU - *RE: Radio Equipment
2016年6月13日以降、適用開始 (一年間は、1995/5/ECからの移行期間)

■機械指令(Machinery Directive -2006/42/EC *現行、旧指令のまま)

(2) 低電圧指令(2014/35/EU)のRA要求

■低電圧指令の製造者の役割(モジュール A: 内部生産管理)

  1. 製造者は、技術文書を作成すること。
    …shall establish the technical documentation
  2. 該当する要求事項の適合性評価を行うこと。
    …shall make it possible to assess the electrical equipment’s conformity to the relevant requirements,
  3. 適切なリスク分析、及び評価を含めること。
    … shall include an adequate analysis and assessment of the *risk(s).

★解釈

*低電圧指令のリスクアセスメント要求 (Guidance Document @ EU)

  • 適切な ⇒ 方法は要求していない *CENELEC Guide 32 / ISO IEC Guide 51
  • リスク分析 ⇒ 開発段階での分析 *ISO 13849-1 / FMEA (Failure Mode and Effect Analysis) etc.
  • リスク評価 ⇒ ユーザー使用を含めた全段階での評価 *ISO 12100 / R-Map etc.
  • リスク *risk(s) 複数のリスクを意味 ⇒ 想定されるすべてのリスク指令(2014/35/EU)のRA要求

(3) EMC指令(2014/30/EU) のRA要求

■EMC製造者の役割 (モジュール A: 内部生産管理)

  1. 製造者は、EMCアセスメント(an EMC Assessment) を実施して、関連現象
    (the relevant phenomena)に基づき基本的要求事項(AnnexⅠ)を満たすこと。
  2. EMCアセスメントは、通常の意図された動作条件(an normal intended operating conditions)をすべて考慮、装置が別の構成(taking different configurations)をしている場合、その意図された用途を代表(Representative of its intended use)して適合確認を行う。
  3. 適切なリスク分析、及び評価を含めること。
    … shall include an adequate analysis and assessment of the *risk(s)

★解釈

新EMC指令ドラフトガイド(2016/5/13:OJ@EU)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=OJ:C:2016:173:TOC

  • リスク分析についての記載 ⇒ "装置が妨害を与えないこと"のみ
  • リスク分析は、整合規格を用いた場合でも現象から判断する必要があるが、
    EMC指令の必須要求事項は、かならずしも”安全性”を意図していない。
  • ※備考:
    EMCの安全性:Key-Word: Intended use, Ref. MDD with IEC60601-1-2:2014)指令
    (2014/30/EU) のRA要求

(4) RE指令(2014/53/EU) のRA要求

■製造者の役割 (AnnexⅡ モジュール A: 内部生産管理の場合)

製造業者は、指令の必須要求への適合性を確認し、自らの判断のみによって適合宣言を行なう。

  1. 指令の必須要求への適合性の確認
  2. 技術文書の作成
  3. 適合宣言書の作成
  4. 指令の必須要求と技術文書に適合する機器を生産
  5. CE マーキングの表示

■RE指令の要求 (Article 3)

無線機器は以下のことを確実にするように構成されていること。

  1. Article 3-1(a)
    低電圧指令2014/35/EUの要求含む、人と飼育動物の健康と安全の保護、及び財産の保護
    低電圧指令と異なり、電圧の範囲による制限は適用されず、全ての機器がこの要求の対象となる。
  2. Article 3-1(b)
    EMC 指令2014/30/EU で定められた、適切な水準の電磁両立性

Article 3 Essential requirements
1. Radio equipment shall be constructed so as to ensure:

(a)
the protection of health and safety of persons and of domestic animals and the protection of property, including the objectives with respect to safety requirements set out in Directive 2014/35/EU, but with no voltage limit applying;
(b)
an adequate level of electromagnetic compatibility as set out in Directive 2014/30/EU.

★解釈

RE指令の低電圧指令やEMC指令との関係は、下記となっています。
1. RE指令の必須要求は、低電圧指令2014/35/EUとEMC指令 2014/30/EUの必須要求を包含する。
2. 対象機器は、低電圧とEMC指令の全ての要求を考慮する、必要但し、それらの指令の適用は不要。
従って、リスクアセスメントも低電圧・EMC指令に従って、その要求を満たすことが要求される。
※前述の(2)低電圧指令(2014/35/EU)のRA要求、及び(3)EMC指令(2014/30/EU)のRA要求を参照

■製造者の役割(Annex III: 型式審査+内部生産管理に基づく型式への適合*モジュール B+Cの場合)

  1. 指令の必須要求への適合性の確認
  2. 技術文書の作成
  3. ノーティファイド・ボディに技術文書を提出、EU型式審査を受ける
  4. EU 型式審査証明書が発行された後、適合宣言書を作成
  5. 必須要求、技術文書、そしてEU型式審査証明書で示されている型式に適合する機器を生産する。
  6. CE マーキングの表示(NBの識別番号)

ANNEX III:CONFORMITY ASSESSMENT MODULES B AND C

EU-TYPE EXAMINATION AND CONFORMITY TO TYPE BASED ON INTERNAL PRODUCTION CONTROL

When reference is made to this Annex, the conformity assessment procedure shall follow Modules B (EU-type examin­ation) and C (Conformity to type based on internal production control) of this Annex.

Module B: EU-type examination CONFORMITY ASSESSMENT MODULES B AND C

3. The manufacturer shall lodge an application for EU-type examination with a single notified body of his choice.
The application shall include:

(a)
the name and address of the manufacturer and, if the application is lodged by the authorised representative, his name and address as well;
(b)
a written declaration that the same application has not been lodged with any other notified body;
(c)
the technical documentation. The technical documentation shall make it possible to assess the radio equipment's conformity with the applicable requirements of this Directive and shall include an adequate analysis and assessment of the risk(s). The technical documentation shall specify the applicable requirements and cover, as far as relevant for the assessment, the design, manufacture and operation of the radio equipment. The technical documentation shall contain, wherever applicable, the elements set out in Annex V;
(d)
the supporting evidence for the adequacy of the technical design solution. That supporting evidence shall mention any documents that have been used, in particular where the relevant harmonised standards have not been applied or have not been fully applied. The supporting evidence shall include, where necessary, the results of tests carried out in accordance with other relevant technical specifications by the appropriate laboratory of the manufacturer, or by another testing laboratory on his behalf and under his responsibility.

★解釈

製造業者は、内部生産管理(モジュール A)の場合と同様に指令の必須要求への適合性を確認して、リスクアセスメントを含む技術文書を作成した後、製造業者が選択したノーティファイド・ボディに技術文書を提出して審査を依頼する。ノーティファイド・ボディは、技術文書のリスクアセスメントレポートを審査して、それが適切であると判断したならば、EU型式審査証明書を発行する。

また、製造業者は、量産での維持管理において、EU型式審査証明書が発行された機器について、対象製品の設計・製造の変更を行なおうとする場合には、指令が要求するリスクアセスメントに変化があるかどうかの確認を行って事前に当該のノーティファイド・ボディに連絡して証明書の維持管理を行わなければならない。

(5) 新EU指令が要求するRAの技術文書

■ Risk Assessmentについても技術文書(TD)に記載することが義務

The manufacturer shall establish the technical documentation. The documentation shall make it possible to assess the electrical equipment’s conformity to the relevant requirements, and shall include an adequate analysis and assessment of the risk(s).

★解釈

【参考】

  • RAの方法は、メーカーで自由に選択できる。
  • RAを実施して、想定されるリスクを許容出来るレベルまで低減したエビデンス(RA Report)を作成すること。
    *参考:http://fujisafety.jp/files/case/JS4-No4.pdf
  • RA Reportの書式は自由、リスク低減のプロセス、保護方策(設計)、残留リスクが明確(製品安全仕様)であること。
    *参考:http://fujisafety.jp/files/case/JS5-No1-2.pdf
    ※リスクを同定して低減した内容は必ずその対策結果と同期すること。
     http://fujisafety.jp/files/case/JS4-No5.pdf
  • リスク分析・評価の結果は、TDに記載すること。
  • 残留リスクは、ユーザーマニュアルに反映すること。

(6) RAの方法 (ISO/R-Map etc.)

■ ISO 13849-1:2006 *New: 2015

  • ISO 13849-1:2006(JIS B 9705-1:2011)は、タイプB規格群の一つに位置付けられる規格
  • 「広範な機械類にわたって適用できる安全性に関する特定の安全側面」の一つ
  • 制御システムの安全関連部、いわゆる安全制御回路について規定したもの
  • パフォーマンスレベルとは、安全関連部全体で実現する安全機能の性能の高さを示す
    「性能レベル(PL)」と「要求性能レベル(PLr)」

■ ISO 12100:2010

3ステップメソッド(3 Step Method)

  • Step 1 可能な限りリスクを排除するか又は低減する(本質安全設計及び構造)。
  • Step 2 排除できないリスクに関して必要な保護方策を採る。
  • Step 3 採用した保護方策が十分でないことによる残留リスクを使用者に情報提供

■ R-Map

  • R-Map手法は、(財)日科技連の「R-Map実践研究会」で開発されたリスクアセスメント手法
  • R-Map実践研究会編著『製品安全、リスクアセスメントのためのR-Map入門(第1版)』
    (財)日科技連 http://www.juse.or.jp/reliability/introduction/#01

(7) どこまでやれば RA要求を満たすか?

- 低電圧(LV)の場合 -

- 参考文献:CEマーキングガイドブック - 日本機械輸出組合(2015年3月) -

■ 低電圧指令の整合規格に基づいて適合性評価を実施する場合にリスクアセスメントの記載は不要なのか? → 回答:条件付きで不要

整合規格には一般にリスクアセスメントに対処した結果が含まれている。
必須要求事項の全てについて、当該製品への適用すべき項目を特定して、それらを整合規格と関連づけて、技術文書に記載する必要がある。
※CENELEC Guide 32:2014
ftp://ftp.cencenelec.eu/CENELEC/Guides/CLC/32_CENELECGuide32.pdf
第9節(リスク低減):特定危険源に対する技術安全対策の残留リスクが許容されるか
否かの判断は、関連要求(危険源)を含むIEC水平安全規格、又はグループ安全規格
又は、他の規格、又は国際規格が存在するか否かによるとしている。
同ガイドの附属書D.1(リスクアセスメント文書)を作成する。
※詳細 https://www.cencenelec.eu/standards/Guides/Pages/default.aspx

■ 規格適合品であってもリスクを引き起こす可能性のある製品対するRA対応は?

市場事故情報、及びその他の情報からリスクアセスメントの必要性を判断する。
※LV指令 第21条 (Article 21:Compliant electrical equipment which presents a risk)
整合規格に要求がなく、メーカーがそのリスクの想定・対策を見逃したことによる。
想定外のRA CE適合性の判断は? 製造物責任(PL)は?

(8) どこまでやれば RA要求を満たすか?

- 電磁両立性(EMC)の場合 -

■ EMC適合性評価は、全ての意図された通常の条件、及び意図した全ての構成について実施しなければならない。(See EMCD ANNEXⅡ Item 2)

適切なEMC適合評価に相当

■ EMC規格に規定がない場合には、装置のワーストケースを特定、その条件で試験する必要がある。 (See EMCD Guide Cl. 3.2.2.1: Worst Case Approach)

ワーストケースでの試験が不可能で代表的な条件で試験を行う場合は、それを検証する考察することが要求されている。
即ち、EMCのリスク評価は通常、整合規格で対応しても良いが、対象製品の使用での大きなリスクが想定される場合には、そのリスク対策を行って、TDに反映すること。
備考:
医用電気機器のEMC規格(安全規格としての電磁妨害)IEC 60601-1-12:2014は、リスクマネジメントを全面的に採用した規格で、製造業者に設計、及びME機器・システムを実現するためのプロセスの中で、電磁妨害に関する多くkの活動を実行すること、及びリスクマネッジメントファイルにそれらの活動結果を文書化することを要求している。
EMC試験機関は、医用電気機器のEMC試験を行う際にこのリスクマネッジメントファイルを調査することが義務づけられている。

(9) 規格要求の概要(CENELEC GUIDE32:2014)

1) 引用規格

※規格書 Clause 3. Normative references 参照

2) リスクアセスメント Risk Assessment

■残留リスクの対策について、適切な保護方策を実施して、ユーザーへの情報提供を行うこと。

Warning of residual RISK

Where RISKS remain despite the inherent safe design measures, safeguarding and complementary protective measures adopted, the necessary warnings, including warning devices, shall be provided.
If a warning device is provided, it shall give an appropriate acoustic or light signal as a warning which shall be unambiguous and easily perceived. The OPERATOR shall have facilities to check the operation of such warning devices at all times.
(Warning devices shall comply with IEC 60073.)

■適合性の検証は、検査(リスク評価)によって行う。

Conformity is checked by inspection.

(10) 何のためにリスクアセスメントを行うか?
    リスクアセスメントは、どこまでやれば良いか?
    それが問題だ!

以上は、新EU指令で要求されているリスクアセスメントの概要です。
リスクアセスメントの本質は、対象製品の安全性(Safety)を確保、向上させることにありますが、EU指令のように法規制・規格としてのコンプライアンス(Compliance)としての対応が必要になります。
今後、更に深掘りをしたコンテンツを掲載する予定です。